・・・ キュリー夫人が帰り着いたパリは、脅威を受けながらも物静かで、九月初めのうっとりするような光りをあびてきらめいている。そして喜ばしいニュースが巷に飛び交っていた。マルヌの戦闘が始まってドイツ軍の攻撃は阻止された。 二人の娘たちはまだ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ 平手うちを一つ受けても倒れるようなかよわい少女たちが、武力と脅威に向って、正しいと思うところを主張しとおしたのも、彼女たちが一人でなかったからであった。一人でない力の強さを、おのずからはっきり知って行動したからであった。 ある季節・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・日本の旧い支配者たちがポツダム宣言を受諾しなければならなくなって、日本の民衆はこれまでの時々刻々、追い立てられていた不安な戦争の脅威から解放された。戦争が不条理に拡げられ、欺瞞がひどくなるにつれて、日本じゅうの理性を沈黙させ、それをないもの・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・国連憲章は第二条第四項で、領土保全と政治的独立に対して武力をもって脅威することを禁じている。第七項にその国の内政に干渉する権能を国連に与えてはならないという条項が厳存している。わたしたち日本の婦人は、どういう戦争にも日本人民として「使用」さ・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・一九三三年プロレタリア文学運動が圧殺されて後、反ファシズムの運動として世界におこった人民戦線の活動が日本に伝えられたとき、治安維持法の脅威によって、日本における人民戦線の紹介者は、極力、「社会性を問題としない」人民戦線にとどめようとしました・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・わたしたち世界の婦人こそ先頭にたって原子兵器の脅威という現代の悪夢を追いはらいましょう。〔一九五〇年八月〕 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・ クルベルは、夫人をしつこく口説くのであるが、その、あの手この手は悉く男爵家の陥っている経済的困難を中心とする脅威であり、誘惑である。色と慾とに揺がぬ根をはった強い色彩と行動との中にいつしか読者はつり込まれ、「若しも私が貴方のた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・――ジェルテルスキーは、そのように押しづよい女の四つの目で見つめられる自分の口許に髭の無いことが、変に気になった程、沈黙は脅威的であった。彼は遂に、「では兎も角私の家へお伴しましょう」と云った。「ダーリヤ・パヴロヴナに一度都合を・・・ 宮本百合子 「街」
・・・一家から主人と息子が遠距離通勤、通学していると仮定すれば、それだけでも最低賃銀四百五十円はどんなに脅威を感じるだろう。 更に瞳を転じて先程の戦時利得税、財産税ということをかえり見ると、これらの支払わなければならない税金は、やはり外見上、・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ わたしたちのように平和の願いの中に生まれ、平和の願いのうちに人間精神をめざまされているフランスの若い世代は、こんにち戦争の脅威のうちにも、やはり考えることは戦争ではなくて、平和である。不幸にも、ふたたびヨーロッパが戦場に化すようなこと・・・ 宮本百合子 「私の信条」
出典:青空文庫