・・・(巻初に記して一粲に供した俗謡には、二三行、…………………………………… 脱落があるらしい、お米が口誦を憚「いやですわね、おじさん、蝶々や、蜻蛉は、あれは衣服を着ているでしょうか。――人目しのぶと思えども・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ことに本堂は屋根の中ほど脱落して屋根地の竹が見えてる。二人が門へはいった時、省作はまだ二人の来たのも気づかず、しきりに本堂の周囲を見廻し堂の様子を眺めておった。省作はもとより建築の事などに、それほどの知識があるのではないけれど、一種の趣味を・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・隆盛はとにかく、事がらによっては十八年の十が脱落したという可能性もある。しかし明治八乙亥とあればまず八年に間違いはないのである。年数と干支が全部合理的につじつまを合わせて、念入りに誤植されるという偶然の確率はまず事実上零に近いからである。・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・このようにして根もとに近いほうから順序正しくだんだんに脱落して行くのであった。 S君がまたベコニアを届けてくれた。大きさは前にT君からもらったのと同じくらいであった。しかし前のに比べて花の色も葉の色もいったいに薄くてなんとなくさびしかっ・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・しかし葉という物質が枝という物質から脱落する際にはともかくも一種の物理学的の現象が発現している事も確実である。このことはわれわれにいろいろな問題を暗示し、またいろいろの実験的研究を示唆する。もしも植物学者と物理学者と共同して研究することがで・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・は最後の網となって経済能力の弱い母の手から脱落しようとする子を社会の成員として受けとめるのである。 女の中に予期された母性の経済的独立を保証する為、離婚法は、女に職業能力がない場合、一年間生活保証すべき義務を夫に示している。 合法的・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・民主化という標語をかかげて、策動しているものは潜伏的なファシストや、侵略戦争に協力した脱落社会主義者たちであることについて知らないひとはなくなっている。 またさきごろは、戦争に最も反対した民主主義者を新しい軍国主義者であるといった言説が・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・プロレタリアの陣営にうつるか、同伴者として存在するか、反動にかたまるか、脱落するか、インテリゲンツィアの行く道は、そういうふうに幾通りかに単純化されていて、たとえば有島武郎にしろ、芥川龍之介にしろ、自身の生死と人民解放運動とを、あんなに深刻・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・の中央機関への参加を拒否する同盟中心主義、あるいはさまざまな名目による運動からの脱落、敵との妥協。大衆追随主義としてあらわれた自然成長性への屈伏など。右翼的偏向は、複雑な組合わせと多様と度合とをもって現れたのであった。「戦争と革命との新・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・であったゴーリキイははなはだしく動揺して、ボグダーノフと雑誌を出したり、ボグダーノフに利用されるような労働者学校を組織したりして、一時レーニンの社会民主労働党から脱落しかけた。その時、フランス、イギリス、ドイツ、ロシアのブルジョア新聞は手を・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫