・・・年は十九か、二十にはまだなるまいと思われるが、それにしても思いきってはでな下町作りで、頭は結綿にモール細工の前まえざし、羽織はなしで友禅の腹合せ、着物は滝縞の糸織らしい。「ねえ金さん、それならお気に入るでしょう?」とお光は笑いながら言っ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・同じようなのが二枚出来たところで、味噌の方を腹合せにしてちょっと紙に包んで、それでもう事は了した。 その翌日になった。照りはせぬけれども穏やかな花ぐもりの好い暖い日であった。三先輩は打揃って茅屋を訪うてくれた。いずれも自分の親としてよい・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・という題で『三田新聞』に小田嶽夫氏の書いている文章をよみ、それと腹合わせに「創生記」を読み、私は鼻の奥のところに何ともいえぬきつい苦痛な酸性の刺戟を感じた。昔の人は酸鼻という熟語でこの感覚を表現した。更に「地底の墓」「落日の饗宴」とを読み、・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
出典:青空文庫