・・・所謂良心的知識人的要素が、経済的文化的現実に即して観察すれば全く大衆の一員でありながら、知識人的意識とでもいうようなものの残像で観念の上では自分たちのインテリゲンツィア性を自意識しながら、実際の結果としては大衆のおくれた底辺に順応しているよ・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・よしんば働く人がブルジョア的な哲学や観念、自意識に魅力を感じている場合にしろ、その本質はやっぱりそれらの人々が、ひとの知っていることは何でも知りたいと希う、労働者階級の要求として、その方向に発展させられてゆかなければならないことは誰にもわか・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ 日本人が日本人としての自意識によって 神経質で敏感で排他的になることとの対比。アメリカ そのかたまらない若々しさ 血気 生活力 理智の新しさ・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・同時に、いまの日本に急速にひろがりつつある不健全な時代錯誤、特権生活への架空な憧れと嫉妬のまじりあったような風潮も、青春の敏感な自意識をむしばみつつある。卑俗な風俗小説のほとんどすべてが、読者の好奇をそそるために、闇の世界とえせの貴族趣味と・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・貧困が文化面に迄及んでいる一般人は、身に迫った生活の苦痛の中で、活きかたを求めこそすれ、こなごなのようにされ、生気を失っている自我がああでは如何、こうでは如何と、自意識の鏡にうつして身をよじる文学の眺めに、ついて行けないのは当然ではないであ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・的出発の当初から、現実の或る面に対しては敏感であったが、その敏感さの稟質は、一箇の芸術家として現実を全面から丸彫にしてやろうという情熱において現れず、常に、現実の一面にぶつかってそこから撥ね返る曲線を自意識の裡で強調する傾向で現われた。横光・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・併しながら、父が一人の父として、燦きのある暖い水のように豊富自由であり、相手を活かす愛情の能力をもち、而もそういう天賦の能力について殆どまとまった自意識を持たなかった程、天真爛漫であった自然の美しさについて、心から讚歎を禁じることの出来ない・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・もとより我々は、それを自分の感情として経験するのではなく、あくまでも対手の感情として、自意識を離れて感ずるのである。その焦点にはただ対手の感情のみがあって、自分はない。むしろ自己が、その焦点において、対手の内に没入しているのである。けれども・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫