・・・童貞の青年といえども、すでに自慰を知らぬものはなく、肉体的想像力を持たぬものもあり得ない。全然とり返しがつかぬという考え方はこれは天国的なものでなく、悪魔の考え方である。 しかし童貞を尊び、志向を純潔にし、その精神に夢と憧憬とを富ましめ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・かれら大学教授たちは、こういうところで、ひそかに自慰しているのであって、これは、所謂学者連に通有のあわれな自尊心の表情のように思われる。また、その馬鹿先生の曰く、事ここに到っては、自分もペンを持つ手がふるえるくらい可笑しく馬鹿らしい思いがし・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 俳句を修業するということは、以上の見地から考えると、退嬰的な無常観への逃避でもなければ、消極的なあきらめの哲学の演習でもなく、またひとりよがりの自慰的お座敷芸でもない。それどころか、ややもすればわれわれの中のさもしい小我のために失われ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 生活そのものにつかみかかって来るような必然性に欠けた、インテリゲンチアの知的自慰にすぎぬ不安の文学が、当然の結果として夢想しているように強烈な、ヨーロッパ的立体性をもった内容の新しい心境文学を創り出すことができないでいる間に、いい加減・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・時代には近代のブルジョア・インテリゲンチアらしく、科学知識への興味を自慰的に示していた川端康成は、次第に円熟し、東洋人らしくなり、仏典をいじり、霊の輝きへの信仰によって高められ、微妙な美の創造者になったかのようである。 が、しかし、この・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫