・・・したがって文芸の中でも道徳の意味を帯びた倫理的の臭味を脱却する事のできない文芸上の述作についてのお話と云ってもよし、文芸と交渉のある道徳のお話と云ってもよいのです。それでまず道徳と云うものについて昔と今の区別からお話を始めてだんだん進行する・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・いわゆる混戦時代が始まって、彼我相通じ、しかも彼我相守り、自己の特色を失わざると共に、同圏異圏の臭味を帯びざるようになった暁が、わが文壇の歴史に一段落を告げる時ではなかろうかと思います。・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・芭蕉これに対して今少し和歌の臭味を加えよという、けだし芭蕉は俳句は簡単ならざるべからずと断定してみずから美の区域を狭く劃りたる者なり。芭蕉すでにかくのごとし。芭蕉以後言うに足らざるなり。 蕪村は立てり。和歌のやさしみ言い古し聞き古して紛・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は正しくても、舞台を踏んで遣りこなす教養がどうしても足りないので不具になる。近頃、女優劇と云えば、既に或る程度の水準が定められ、喧しくがみがみ云わない代り・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・先生と云う臭味がこんな時プーンとする。私はだまってきいて居る。祖母はおつとめにじいっとしてきいて居るらしく時々妙な質問を出して先生をどぎまぎさせて居た。私がだまって居るので、いろいろの事に話が渡って、しまいには、女に女学校以上の学問を養わせ・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫