・・・いずこ心のままに 興じたる黄金の時よ 玉の日よ汝帰らず その影を求めて我は 歎くのみ ああ移り行く世の姿 ああ移り行く世の姿塵をかぶりて 若人の帽子は古び 粗衣は裂け・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ 水晶のいはほに蔦の錦かな 南条より横にはいれば村社の祭礼なりとて家ごとに行燈を掛け発句地口など様々に書き散らす。若人はたすきりりしくあやどりて踊り屋台を引けば上にはまだうら若き里のおとめの舞いつ踊りつ扇などひらめかす手の黒きは・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・ 年老いた私共は、その若人のするほどにも思われなければ又する勢ももう失せて仕舞うたのじゃ――が年若い血のもえる人達はようする力をもってじゃ。 身分の高い低いを思ってするのではござらぬワ。 体中をもって狂いまわる血の奴めが思う御人・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ 新体制という声は、若人よ立て、という響をおこしたけれど、このことは実際生活の中でどんな形であらわされているだろうか。 たとえば四国の方のある女学校では、夏の炎天でも日傘をさすことをやめさせたという記事をこの間読んだ。 四国とい・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・世界の若人たちと手を輪につなげ、日本をふくむ世界の若い人々は、男も女も、野蛮な力で生命と人生がふみにじられることに対しては徹底的に抗議している。〔一九四九年十二月〕 宮本百合子 「小さい婦人たちの発言について」
・・・館の殿と云うのは二十の声をおととしきいたばかりの若人、ともにすむ母君と弟君、二人ながらこの世の中に又とかけがえのない大切な一人きりの方達で有る。有って都合の悪いものと云えば誰でも知る居候、大家のならいこの御館にも男二人女二人のかかり人。・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・まだ封建の気分がのこっている日本は、若人に対してほんとの人間愛に不足している。青年の新鮮な能力に負わすところは大きいくせに、ふだんの社会生活の感情のなかではその人たちの市民的生活の幸福について関心し、能力を温くはぐくむヒューマニティにかけて・・・ 宮本百合子 「ボン・ボヤージ!」
けさ、新聞をひろげたら、『衆院傍聴席にも首相の「若き顔」』として、米内首相の子息の学生服姿が出ている。本当にこの息子さんの面ざしはお父さんの俤を湛えているけれども、この若人も、きのうはやっぱり地下室に蜒々と連らなった人の列・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫