・・・しかるにまた、献身、謙譲、義侠のふうをてらい、鳳凰、極楽鳥の秀抜、華麗を装わむとするの情、この市に住むものたちより激しきはないのである。そう言う私だとて病人づらをして、世評などは、と涼しげにいやいやをして見せながらも、内心如夜叉、敵を論破す・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・俳優としてよりむしろライナーの富、華麗、社交性、女としての日常性があすこで一閃するが如き強烈な印象を与えるのである。映画全体として、これは一つの大きい破綻のモメントである。監督フランクリンがそれに心付いていまい。そのことにもまたこの監督の身・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・作品の世界は、幻想的と云われ、或は逞しき奔放さと云われ、華麗と云うような文字でも形容され、デカダンスとも云われ、あらゆる作品の当然の運命として、賞讚と同時の疑問にもさらされた。文学の作品として、かの子さんの幻想ならぬ幻想が、その世界として客・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・幾千万の私たち大衆が、つつましく名もない生涯を賭しながら、自身の卑俗さともたたかいながら、日夜生きつつあるその歴史の価値についての理解、その歴史に生起する幾多の華麗ならざる偉大な行動への愛、無力なものがいかに終局において無力ならざるものであ・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ ルネッサンスの表は、華麗豪華な厚肉浮彫の歴史であるが、その陰の部分には封建性が濃くのこっていた。例えばレオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザはどういう笑いを今日にのこしているだろうか。モナ・リザの微笑は、それが描かれた時代から謎のほほ笑・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・パリの華麗なシャン・ゼ・リゼのつき当りの凱旋門の中に、夜毎兵士に守られて燃えつづけていた戦死者記念常夜燈に、平和は求め叫ばれつづけていた。 二十五年めに、ナチス・ドイツの乱暴な侵略で第二の大戦がはじまったとき、民主国の男女は怒りに燃え、・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・には、これまでの詩の華麗流麗な綾に代る人生行路難の暗喩がロマンティックな用語につつまれつつ、はっきり主体をあらわしている。「野路の梅」にも同じ傾きとして、浮薄な世間の毀誉褒貶を憤る心が沁み出ている。これは、『若菜集』によって、俄に盛名をあげ・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ ナポレオン・ボナパルトのこの大遠征の規模作戦の雄大さは、彼の全生涯を通じて最も荘厳華麗を極めていた。彼は国内の三十万の青年に動員令に対する準備を命じた。更に健全な国内の壮丁九十万人を国境と沿海戦の守備に充てた。なおその上に、彼はフラン・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・に達したとき、そこに彼らは至る処、十六世紀のカピタンたちが沿岸で見たと同じ華麗なものを見いだしたのである。 フロベニウスは一九〇六年、その第一回の探検旅行の際には、なお、コンゴーのカッサイ・サンクル地方で、カピタンが描いたと同じような村・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・ここに人生は華麗なる波紋を画き出した、執着の反動は恐ろしきものである。 憤怒があり哀願があるのは「自己」の存在を認識して後に起こる現象である。己が不遇を知らずして天を楽しみ地を喜び平然として生きるものはさらに憐れむに足る。深山に人跡を探・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫