・・・焦土に萌える新しい緑へのよろこびからばかり、その美しさが見えたのではなかった。〔一九四七年七月〕 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・濡れた心から芽が萌える。苦しさ、この苦しさは旱魃だ。乾く。心が痛み、強ばり罅が入る。 私はどうかして一晩夢中で悲しみ、声をあげて泣き、この恐ろしい張りつめた心の有様から逃れたい。私の感傷は何処に行った。ああ本当に泣けさえしたら! 考・・・ 宮本百合子 「文字のある紙片」
・・・ ―――――――――――― 水が温み、草が萌えるころになった。あすからは外の為事が始まるという日に、二郎が邸を見廻るついでに、三の木戸の小屋に来た。「どうじゃな。あす為事に出られるかな。大勢の人のうちには病気でおるも・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫