・・・その首を口にふくんで適当な圧力で吹くと底のガラスの薄板がポンという音を立ててその曲率を反転する。逆に吸い込むとペンと言ってもとの向きに彎曲する。吹くのと吸うのを交互に繰り返すと、ポペン/\/\というふうな音を出す。吹き方吸い方が少し強すぎる・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 屑拾いよりもっと有利な仕事は材木置場から薄板をかっ払うことであった。一日に二三枚は窃んで来られた。いい板一枚に家持の小市民は十哥ずつ呉れる。この仕事には仲のいい徒党があつまっていた。モルト人の乞食の十歳になる息子のサーニカ。大きい黒い・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・またオカ河の材木置場から薄板を盗むこともやった。それで三十カペイキから半ルーブリを稼ぎ、銭は祖母にやる。――この時代の仲のよい稼ぎ仲間とのほこりっぽい、だが多彩な生活の思い出を後年ゴーリキイは長篇小説「三人」のうちにいきいきと描いている。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫