・・・ここでは二つのものが、生活の必要という立前から虚飾なく統一されている。 あのひと、このひと、と実際の場合について考えて見ると、仕事らしい仕事をしている女のひとは、結局みなそれぞれの技術で、万一のときは十分やって行けるところまで達している・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ けれども、壺井さんについていわれるその人柄のよさというもの、虚飾なさ、健全さというものも『暦』一冊を丁寧に読めば、決して単純な生れつきばかりでああなのではないということが考えられると思う。相当な年で円熟しているというばかりでもない。こ・・・ 宮本百合子 「『暦』とその作者」
・・・ 丁度、雨にそぼぬれた獣物が、一つところにじっと団り合って、お互の毛の臭い、水蒸気に混って漂う息の臭いを嗅ぎ合うような親密さ、その直接な――種々な虚飾や、浅薄な仮面をかなぐり捨てて、持って生れた顔と顔とで向い合う心持は、私の今まで知らな・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・現実は誠実であり虚飾がない。今日の現実はあまり大勢あふれている未亡人たちを、もう昔の未亡人型に押しはめておききれなくなっている。それらの若い、孤独な妻たちは、季節季節の色どりを健気に身をつけて、さまざまの職業につき、経済上の自立とともに未来・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・私がよい友となれる希望を充分にもつのは、その人達と一緒にいると私は虚飾を忘れ、楽な、きのままの、それでいて決してうじゃじゃけてはいないいい心持になれるからだ。その人々と遊んだり、喋ったりすると、あとは爽やかで勇気づけられ、意気込んで来る。実・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・人間の心得として、虚飾や、いかものの化粧が、実に無価値であることを、教えられるより、細々、一々、実際について、批評される。それも、「あなた、そういう風は、しない方がよくはありませんか、お嬢さんらしくないから」とか、「おやめなさい」・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・何かそこに安住していられないものがあって、もっと虚飾のない、むき出しの、だが愛らしくぴちぴちした娘という響を自分たちの若さの表徴とする好みになっている。お嬢さん、と云われることのなかにおのずから重苦しく感じさせられる境遇の格式ばった窮屈さや・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・とかという場合の、ありのままという言葉に現わされた気持ちがそれである。虚飾に流れていた前代の因襲的な気風に対して、ここには実力の上に立つあけすけの態度がある。戦国時代のことであるから、陰謀、術策、ためにする宣伝などもさかんに行なわれていたこ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫