・・・そのことのまじりけなさの故にこそ、私たちが血縁をもって結ばれているという事実も人間史の鏡に映って云うに云えない味いに満ち、愛着の新鮮な泉をも絶やすことがないのであると思われる。〔一九四四年十二月〕・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・互に求め合い、思い合っていた血縁、愛人達、誼の深い友達共が、はっと息災な眼を見合わせた刹那、思わずおとした一滴です。イオイナ まあ美しいこと。曇もない。かえしておやり、返しておやり。これは勤勉の根に注ぐ比類のない滋液です。使者 それ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・外国人によって細かく観察された描写という以上の血縁的なものがある。「お菊さん」を書いた、ピエール・ロチの筆致は実に細かで敏感で、長崎の蝉の声、夏の祭日の夜の賑い、夜店の通りを花と一緒に人力車に乗って来るお菊の姿の描写などは、日本人では或・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・が、作品としては魯文の血縁たる強い戯作臭の中に漂っていた。 二年後の明治二十年に、二葉亭四迷の小説「浮雲」があらわれ、日本文学ではじめての個性描写、心理描写が試みられたのであった。この小説が当時の知識人に与えた衝撃は深刻且つ人生的なもの・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫