・・・無論マクベスの発端のように行数は短かくても、興味の上において全篇を貫く重みのあるものは論外であるが、平々凡々たるしかも十行内外の一段を設けるのは、話しの続きをあらわすためやむをえず挿入したのだと見え透くように思われる。換言すれば彼の戯曲のあ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・こう書いたら笑われるだろう、ああ云ったら叱られるだろうと、びくびくして筆を執るから、あの男は腹の中がかたまっておらん、理想が生煮だ、という弱点が書物の上に見え透くように写っている、したがっていかにも意気地がない。いくら技巧があったって、これ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・わが邦千余年間の和歌のいかに簡単なるかを見ば、人の思想の長く発達せざりし有様も見え透く心地す。この間に立ちて形式の簡単なる俳句はかえって和歌よりも複雑なる意匠を現わさんとして漢語を借り来たり佶屈なる直訳的句法をさえ用いたりしも、そは一時の現・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫