・・・監督が父の代から居ついていて、着実で正直なばかりでなく、自分を一人の平凡人であると見切りをつけて、満足して農場の仕事だけを守っているのは、彼の歩いて行けそうな道ではなかったけれども、彼はそういう人に対して暖かい心を持たずにはいられなかった。・・・ 有島武郎 「親子」
・・・荒れ果てた畑に見切りをつけて鮭の漁場にでも移って行ってしまったのだろう。 昼少しまわった頃仁右衛門の畑に二人の男がやって来た。一人は昨夜事務所にいた帳場だった。今一人は仁右衛門の縁者という川森爺さんだった。眼をしょぼしょぼさせた一徹らし・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・私は後者の長さに飽き果てて、遂に学校に見切りをつけてしまった。事変がはじまる半年前のことであった。 三 学校をやめたので、私は間もなく徴兵検査を受けねばならなかった。 私は洋服を持たなかったので、和服のまま検査・・・ 織田作之助 「髪」
・・・東京人でありながら、早くから東京に見切りをつけて、関西を第二の故郷としておられる谷崎氏の実感の前には、東京文壇の空虚な地方文学論なぞ束になっても、かなわぬのである。 故郷を捨てて東京に走り、その職業的有利さから東京に定住している作家、批・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・たとえば今から五年前に都会の生活に見切りをつけて、田舎に根をおろした生活をはじめていたら、あまりお困りの事は無かった筈だ。愚図々々と都会生活の安逸にひたっていたのが失敗の基である、その点やはりあなたがたにも罪はある、それにまた、罹災した人た・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・といったようなふうで、あっさりと見切りをつけて結局このけんかはもの別れになるらしい。蛇のほうはやはり受動的であって、こっちから追っかけて行って飽くまで勝負を迫るほどの執念はなさそうである。 このような大蛇と虎の闘争が実際にしばしばジャン・・・ 寺田寅彦 「映画「マルガ」に現われた動物の闘争」
・・・に私たち全人民が見切りをつけているかということの端的なあらわれであると思う。本当に、私たちにとって、これまでの政治は一つも用がなくなっているのである。 これまでの政治に用はない、と背を向けている二千万の婦人が、では、自分たちの毎日の辛苦・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫