・・・文句はあれで結構、身ぶりもあれで結構、おふみの舞台面もあれでよいとして、もしその間におふみと芳太郎とが万歳をやりながら互に互の眼を見合わせるその眼、一刹那の情感ある真面目ささえもっと内容的に雄弁につかまれ活かされたら、どんなに監督溝口が全篇・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・訊かれた学生は互に一寸顔を見合わせるような素振りをし、「僕たちの方には来ていません」と低い声で答えた。「――本国であんなごたごたしているのに、金、なじょにするだべ」 ききなれたそれは福島辺の訛なので、私はぼんやりした好意をそ・・・ 宮本百合子 「北へ行く」
・・・第一の女法王様でございますわ――二人の女はだまって顔を見合わせる。暫時沈黙。うめく様に非番の老近侍に云う。第二の女 貴方……殿方でいらっしゃいますわ。 恐ろしい事にも度々お出会になった御方でございますわ。 私・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫