・・・ 尤も二時三時まで話し込むお客が少くなかったのだから、書斎のアカリの消えるのが白々明けであるのは不思議でない。「人間は二時間寝れば沢山だ、」という言葉は度々鴎外から聞いた。「那破烈翁は四時間しか寝なかったそうだが、四時間寝るのを豪が・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・だから頼りになりそうな山崎のお母さんと話し込むと、正体がないほど弱くなってしまうの。 窪田が二十日程して釈放された。すると、直ぐ家へやって来てこんなに大衆的にやられている時に、遺族のものたちをバラ/\にして置いては悪いと云うので、即・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・夕飯後の茶の間に家のものが集まって、電燈の下で話し込む時が来ると、弟や妹の聞きたがる怪談なぞを始めて、夜のふけるのも知らずに、皆をこわがらせたり楽しませたりするのも次郎だ。そのかわり、いたずらもはげしい。私がよく次郎をしかったのは、この子を・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・時には、音吉が鈴を振鳴しても、まだ皆な火鉢の側に話し込むという風であった。「正木さん、一寸この眼鏡を掛けて御覧なさい」「まだ私は老眼鏡には早過ぎる――ヤ、これは驚いた――こう側へ寄せたよりも、すこし離した方が猶よく見えますナ――広岡・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・その時またちょっとした話の行きがかりでなお十分ほど尻を落ち付けて話し込むような事になった。それでも玄関へ降りた時には、さほど急がずに汽車に間に合うつもりであった。で、玄関に立ったまま、それまで忘れていた用事の話を思い出して、しばらく話し合っ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫