・・・それでこの際そういう家屋の存在を認容していた総督府当事者の責任を問うて、とがめ立てることもできないことはないかもしれないが、当事者の側から言わせるとまたいろいろ無理のない事情があって、この危険な土角造りの民家を全廃することはそう容易ではない・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・の存在を許す認容の言葉であるかとも思う。もしそうだとすると長い間封じ込められていた化け物どももこれから公然と大手をふって歩ける事になるのであるが、これもしかし私の疑心暗鬼的の解釈かもしれない。識者の啓蒙を待つばかりである。・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 統計的方法の長所は、初めから偶然を認容してかかる点にある。いろいろな「間違い」や「杜撰」でさえも、最後の結果の桁数には影響しないというところにある。そして、関係要素の数が多くて、それら相互の交渉が複雑であればあるほど、かえってこの方法・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・の限界を認容することになった。いわば昔はただ主観の不確定性だけを認めて客観の絶対確定性を信じていたのが今では不確定性を客観的実在の世界へ転籍させた。この考えの根本的な変遷はいわゆる「因果律」の概念にもまた根本的の変化を要求する。しかしそれは・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・こういう風に或程度まで芸術と倫理と相離るる部分はあるけれども、最後または根柢には倫理的認容がなければならぬのであります。従って小説戯曲の材料は七分まで、徳義的批判に訴えて取捨選択せられるのであります。恋を描くにローマン主義の場合では途中で、・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・真にプロレタリアートの解放と勝利との歴史性を理解しその実践にしたがうものが、闘争の必然的形態として必要な組織活動を自身の実践として認容しない筈はなく、それをなし得ないような党派性なき世界観を持つ者ならば、プロレタリア作家として立派な作品どこ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・それ故、自分並全人類の持つ痴愚や不完全さが、随分のところまで認容します。真個に大切な光りとなるものが消され、破られない程度までは。従って生活、人格の発育と云うことを、実際的にも抽象的にも、経験によって居ります。私の裡には、或る程度まで何でも・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・ある一部の紹介者は社会主義的リアリズムをもって、芸術に於ける世界観の抹殺と小市民性、インテリゲンツィア性のあるがままの形での認容であると誤って理解した。これは全く正反対のものである。この誤解は、その半面に、さっきもそれについて触れた些末的写・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・かされはじめていたので、新たな社会主義的リアリズムの提案は、それが他の国々で摂取され展開されたような過去の健全な進展としてよりも、日本では寧ろプロレタリア文学における小市民的要素のあるがままの状態での認容、インテリゲンツィアの技術上の優越と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 総体がリアリズムによって書かれているのではないことを一応認容した上で、これはいえることなのであるが、久内が自由の精神によってもって立つ人間と自覚し得るに到るために、作者は久内に多岐多様な内的苦悩を経験させているとは決していえないのであ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫