・・・この二つの大阪弁の一人称小説を比較してみると、語り手が一方は男であり、他方は女であるという相違だけではなく、まるで同じ土地の言葉とは思えぬくらい違っているのだ。「卍」はいつもの饒舌癖がかえって大阪の有閑マダムがややこしく入り組んだ男女関係の・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ごろ聞かぬ御卓見、私たのまれもせぬに御一同に代り、あらためて主催者側へお礼を申し、合せてこの会、以後休みなくひらかれますよう一心に希望して居ることを言い添え、それでは、私、御指命を拝し、今宵、第一番の語り手たる光栄を得させていただきます。私・・・ 太宰治 「喝采」
・・・よかれ、あしかれ、日本の民主主義文学の運動にふれたり、それをまともに論議したりすることは、語り手自身のファッション・ショウめいているそのような場面ではもう流行はずれの気風がつくられた。民主的評論家は沈黙し、ジャーナリズムが釣り出した新人でな・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 作家としての中野さんは、上手な語り手である。その特色は、昔「鉄の話」によい価値で現われたし、この「汽車の罐焚き」において作品としてまとめ、読者をひっぱってゆく技術的な力として役立っている。だが、それ故にこの作品の扱いかたが、作者として・・・ 宮本百合子 「鼓舞さるべき仕事」
・・・学は労働階級の動きを表面から模写してゆくのではなくて、すべての勤労者と小市民・インテリゲンチャが歴史の中で、一人一人の必然の過程を通ってどのように新しい推進力として民主革命に参加してゆくかという物語の語り手でなければなりません。ブルジョア文・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・他の人形との間に、さらに語り手や三味線との間に、存しなくてはならない。それでなくては舞台上の統一は取れないのである。オペラや能と違って人形浄瑠璃においては音楽は純粋に音楽家が、動作は純粋に人形使いが引き受ける。そこで動作の心使いに煩わされる・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫