・・・とヴィナスの胸像も、やっぱり高等学校時代の買物で、これを貧乏書生が苦心して買って家へもって帰って来たら、八十何歳かの祖母が、そんな目玉もない真白な化物はうちさいれられねえごんだと国言葉で憤慨し、それを説得するに大骨を折ったと話したりしたこと・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・一握りの思慮分別の足りない頭のわるいものたちの抵抗は、一人一人の自分を説得する名目を発見しながらおとなしくファシズムのもとにひしがれることを観念しつつある知性を刺戟した。実体はファシズムや治安維持法そのものに対する嫌悪であり反撥であったのだ・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・彼女を愛す善良で進歩的な男たちが、新しい内容で男女の結婚生活の可能を説得しようとしても、アグネスは執拗にその手をふりもぎって、最も悲惨な形での妻、母の生活の絵から、目をはなそうとしない。彼女の幼年時代、少女時代、その境遇は十分彼女の心にその・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・との説得に、新しい愛人としての優越感ばかりで誇らかであり得るだろうか。職場で働き、職場でたたかいつつある若い独立した婦人であったらばこそ、女の上に新鮮な意志と情感が花咲いていた。もしせまい家庭にかがまって夫に依存する女になったら、急に色あせ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・そして、私たちは搾取しようなどと夢にも思っていない、産業軍の一兵卒として自分から身を挺して働いているのであるというようなことを熱心に説得する対手の感情にまきこまれ、彼等の舌代的なところがある作品が出来上って、おやおやということがあったという・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・エフレイノフは美しい長髪を振りながら、善良な心に燃えてゴーリキイを説得した。「君は生れつき科学に奉仕するために作られているんだ。――大学は正に君のような若者を必要としているのだ」 そして、エフレイノフの言葉に従えば、カザンへ行ったら・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 働いている若い女のひとと、働らかないで暮していられる女のひととを並べて、毎日の生活感情に空虚感なんかない筈の理由を説得しようとしても、現実にそれは承引され難い。だが、近頃、若い男女が、反動に対する消極的な反撥のポーズの一つとして、今日・・・ 宮本百合子 「私たちの社会生物学」
出典:青空文庫