日本の言葉に、大人気ない、という表現がある。誰の目から見てもあんまり愚劣だと思われることがらや、衆目が、そこに誹謗を見とおすような言動に対して、まともにそれをとりあげたり、理非を正したりすることは、日本の表現では大人気ない・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・このように、ソヴェト同盟という社会主義社会では、一人一人の男女市民がその能力・才能と生活経験において独特な幅と質とを賦与されているという事実を、しいて無視し、さげすみ、誹謗して自身の壊滅の素因をつくったのがナチスであった。 こんどの大戦・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・虚構誇大、事実をまげて検事裁判官、裁判所を誹謗し、演説会で宣伝する。これは侮辱、名誉毀損、恐喝、恐迫等の犯罪を構成する。適当な機会に断固たる処置をとりたい。数十名の弁護人ならびに三分の二の傍聴人により法廷を制圧している等の諸点をあげて示威し・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・変だと思うとき、ひとは、それが変だからこそ、誹謗に都合がよいとして、それをつかうだろうか。――まして代議士のやりあいではなく、文学について語る場合、平野氏が、軌道性なんとは変だ、おかしいと云いながら、評論家としての心の働きを、強引なその変さ・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・そしてこれがプロレタリア文学運動誹謗の種子とされているけれども、この日本風な現象については日本風な専政支配の野蛮さと、大衆の生活に多様な階級的文化の組織がなかったこと、僅かに文化サークルが組織されかかっていたばかりであったことなどを考え合わ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 永年の間あらゆる誹謗でおさえて来た共産党の性質が、まだ人民層にすっかり理解されつくさない間に、人民の日常感情がそこまで民主的になってしまわない間に、社会党にも絶望させられた民衆のあきらめた一票を、いそいで保守に集めてしまおうとすること・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・人々が十数年前、どこか市内の土蔵の地下室にその印刷所があったことを知ったときは、スパイによってその場所があばかれ、当時活動していた重吉たちすべてに、事実とちがう誹謗の告発がされた時であった。ひろ子の文学上の友人で、その頃、印刷所関係の仕事を・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・共産党とプロレタリア文学運動に関係してわたしが人間性を失い同時に文学の能力を殺された、或は失ったということは、わたし一人に対する誹謗としてだけでなく、共産党そのものへの誹謗として言われつづけたものです。そのためにわたしは、過去十二年間、僅に・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・けれども、ここに一人の人があって、真面目に知人と知人との間の親睦を計ろうとするとき、一方の人に、他のものの誹謗をしてきかすだろうか。双方に何か不一致があるときは、具体的にその一致点を研究し、公平に見て、くらべて、一致点を発見して行こうとしな・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・髪をした小学生たちがふと出合って、互いにはにかんでいる絵は、題材の自然さと、描写の活々としたたしかさとで誰の目にも賞牌候補と思われたが、作者のマリアが、金にこまらない貴族の美しい娘であることが、意外の誹謗の原因となった。「ジャンヌ・ダルク」・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫