・・・かつて二葉亭の一身上の或る重要な問題について坪内博士と談合した時、二葉亭の心の中は多分こうであろうと推断して博士に話した。すると間もなく二葉亭は博士を訪うて、果して私が憶測した通りな心持を打明けて相談したので、「内田君も今来て君の心持は多分・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・老人、君の如き異才を見るの明がなくして意外の失礼をしたと心から深く詫びつつ、さてこの傑作をお世話したいが出版先に御希望があるかと懇切に談合して、直ぐその足で金港堂へ原稿を持って来た。「イヤ、実に面白い作で、真に奇想天来です。」と美妙も心・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・田屋の二階座敷が素義会の会場につかわれるなど、寺田屋には無事平穏な日々が流れて行ったが、やがて四、五年すると、西国方面の浪人たちがひそかにこの船宿に泊ってひそびそと、時にはあたり憚からぬ大声を出して、談合しはじめるようになった。しぜん奉行所・・・ 織田作之助 「螢」
・・・開き直ったというほどでもないが、こっちの意味が通じなかったことだけはたしかなようにみえたから、自分は紙鳶の話はそれぎりにして、直接重吉のことを談合した。 重吉というのは自分の身内ともやっかいものともかたのつかない一種の青年であった。一時・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・と談合した。一太はそのとき勇み立って、「ああ行こうよ、行こうよおっかちゃん」と云ったが……一太は、頭を傾げ脚をふりふり、「どんなところだろうね朝鮮て! おっかちゃん」と訊いた。男の人は少し笑顔になった。「木浦だったね・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・戦争犯罪によって頭株をとられた進歩党が、築地の待合に共産党をのぞく各派の主だつ婦人たちをよんで、出席した者に、進歩党内の重要なポストを与える談合を行った。生産面における勤労階級の婦人の永年に亙る犠牲によって、日本の婦人参政権はもたらされたも・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ そのような日本式談合万端にこそ抵抗しているわれわれではないだろうか。世界のどこの反ファシズム文学者の会合に、そこに集ったひとたちの日常に不足しているとも考えられない一本二本の徳利がなければ座がもちにくいと考えられたためしがあったろう。・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・女も古参女史になれば男と同等、政治談合を待合でやって冷汗も掻かなくなるものかと、笑ってすぎることであろうか。 戦争の惨禍と、人民生活の犠牲。なかでも弱い女の蒙っている打撃の致命的な深刻さを痛切に理解し、一刻も早い適切な処置を思うなら、戦・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・小姓一人は鷺を撃ったあとで、お供をして帰る時、甚五郎が蜂谷に「約束の事はあとで談合するぞ」と言うのを聞いた。死んだ蜂谷の身のまわりを調べた役人は、かねて見知っている蜂谷の金熨斗付きの大小の代りに、甚五郎の物らしい大小の置いてあるのに気がつい・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・お主たちは逃げる談合をしておるな。逃亡の企てをしたものには烙印をする。それがこの邸の掟じゃ。赤うなった鉄は熱いぞよ。」 二人の子供は真っ蒼になった。安寿は三郎が前に進み出て言った。「あれはうそでございます。弟が一人で逃げたって、まあ、ど・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫