・・・私塾と云えばいずれ規模の大きいのは無いのですが、それらの塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が適当な位のものでして、先生は一人、先生を輔佐して塾中の雑事を整理して諸種の便宜を生徒等に受けさせる塾監みたような世話焼が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ すなわち、死ということにともなう諸種の事情である。その二、三をあげれば、天寿をまっとうして死ぬのでなく、すなわち、自然に老衰して死ぬのでなくして、病疾その他の原因から夭折し、当然うけるであろう、味わうであろう生を、うけえず、味わいえな・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 即ち死ちょうことに伴なう諸種の事情である、其二三を挙ぐれば、天寿を全うして死ぬのでなく、即ち自然に老衰して死ぬのでなくして、病疾其他の原因から夭折し、当然享くべく味うべき生を、享け得ず味わい得ざるを恐るるのである、来世の迷信から其妻子・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・近時諸種の訳書に比較して見よ。如何に其漢文に老けたる歟が分るではない乎。而して其著「理学鈎玄」は先生が哲学上の用語に就て非常の苦心を費したもので「革命前仏蘭西二世紀事」は其記事文の尤も精采あるものである。而して先生は殊に記事文を重んじた。先・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・かつ初めより諸種の例に引きたる句多く新奇なるをもって特にここに拳ぐるの要なしといえども、前に挙げざりし句の中に新奇なる材料を用いし句を少し記しおくべし。野袴の法師が旅や春の風陽炎や簣に土をめつる人奈良道や当帰畠の花一木畑・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
生活的な真実というもののあらわれは、非常に多種多様だと思う。 国民文学が単一に民族伝説だけを自身の内容とするのでないことは明らかなわけだから、生活が年々に経てゆく現実の諸相から諸種の文学が生み出されて、そのものの文学と・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
・・・私共は生きる以上、生物として先ず気温との闘争からはじまる、諸種の社会生活における闘争を無自覚ながらやっている。それが、上にのべた場合には自覚され、目的のきめられた闘争として考えられ、行動に組織されるようにならざるを得ないのです。 ところ・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・と言っているが、ここで勧められているのは、文芸を初め諸種の技芸である。しかもその勧めは、前にあげた兼良の『小夜のねざめ』と同じく、平安朝の文芸を模範とした教養の理想のもとに立っているのである。それを説いているのが戦国末期の勇猛な武士であると・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・がこの場合、美の陶酔に自己の安んずる場所を認めるとすれば、それは右の諸種の道と異なった一つの特殊な道である。ここでは美への関心が善への関心の上に置かれる。そうしてあの苦しみが強ければ強いほど、この安心の方法もまたその意味を深めるのである。・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫