・・・その頃、れいの多額納税の貴族院議員有資格者は、一県に四五人くらいのものであったらしい。曾祖父は、そのひとりであった。昨年、私は甲府市のお城の傍の古本屋で明治初年の紳士録をひらいて見たら、その曾祖父の実に田舎くさいまさしく百姓姿の写真が掲載せ・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・風間という勅選議員の甥だそうだが、あてにならない。ほとんど職業的な悪漢である。言う事が、うまい。「チルチルもうそろそろ足を洗ったらどうだ。鶴見画伯のお坊ちゃんが、こんな工合いじゃ、いたましくて仕様が無い。おれたちに遠慮は要らないぜ。」思・・・ 太宰治 「花火」
・・・その点でも市会議員の選挙運動などよりはよほど穏やかでいいものである。 政党の宣伝などに行なわるる手段方法については多くを知らないが、いずれにしてもこれは便宜上の動機から来る宣伝で、始めからまじめなものでないから、どちらがどうなっても問題・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ 壇に向かって後ろ上がりに何列となく並んだ椅子の列には、色々の服装をした、色々の年輩の議員達の色々の頭顱が並んでいた。私は意外に空席がかなりに多い事を不思議に思った。 壇上の人が何かいう度に、向かって右の方と左の方の椅子の列から拍手・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・そういう時に若干の老人が昔の例を引いてやかましく云っても、例えば「市会議員」などというようなものは、そんなことは相手にしないであろう。そうしてその碑石が八重葎に埋もれた頃に、時分はよしと次の津浪がそろそろ準備されるであろう。 昔の日本人・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ 小学校建築には政党政治の宿弊に根を引いた不正な施工がつきまとっているというゴシップもあって、小学生を殺したものは○○議員だと皮肉をいうものさえある。あるいは吹き抜き廊下のせいだというはなはだ手取り早で少し疑わしい学説もある。あるいはま・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ただし市会議員のよこしたのだけは紙くずかごに入れるようである。また自分の住所をかかないでよこすのはこの目的を達しないといってこぼしている。ずいぶん勝手なことをいうのである。 そうかと思うとまた彼はこういう気焔を吐く事もある。「ある僕の全・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・うなずきながら、足首までしろくなったじぶんの足下をみていると、長野がいつもの大阪弁まじりで、秋にある、熊本市の市会議員選挙のことをしゃべっている。深水はからだをのりだすようにして、「そりゃええ、パトロンが出来たなら、鬼に金棒さ、うん――・・・ 徳永直 「白い道」
・・・何に限らず正当なる権利を正当なりなぞと主張する如きは聞いた風な屁理窟を楯にするようで、実に三百代言的、新聞屋的、田舎議員的ではないか。それよりか、身に覚えなき罪科も何の明しの立てようなく哀れ刑場の露と消え……なんテいう方が、何となく東洋的な・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ 博文館なるものはここに説くまでもなく、貴族院議員大橋新太郎という人を頭に戴いて、書籍雑誌類の出版を営業としているものである。ふらふらと僕の家へやって来た女は一時銀座の或カッフェーに働いていた給仕人である。本屋と女給とは職業が大分ちがっ・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫