・・・つつましい冠をいただいた「いと貞操なる御母」まりあは、その稚い美感の制作である天蓋に護られ、献納の蝋燭の焔に少しばかりすすけ給うた卵形の御顔を穏かに傾け佇んで在られる。祭壇の後のステインド・グラスを透す暗紅紫色の光線はここまで及ばない。薄暗・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・その情熱ぬきに、子供の側から見れば、それが多くの場合歴史的な桎梏となっている今日の親子関係の旧套を、そのまま肯定しようとするのであれば、その間には腑に落ちかねる飛躍があると思う。貞操の観念に対して女は久しく受動的であり、無智であったことから・・・ 宮本百合子 「未開の花」
・・・菊池寛氏は、日本の男子がもっと一般に婦人尊重の習慣をもたなければならないこと、妻に貞操を求めるならばそれと同様に自身も妻に対する貞潔を保つべきこと、一旦結婚したら決して離婚すべからざること、それらを、こまかく具体的に、例えば月給は全部妻にわ・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・、「だがわたくしはまだ貞操は売らないぞ」という最後のさけびは、人々の心につきささるようだ。「まだ」という一言になんという人生の内容がつめられているだろう。 四一、未亡人という殊さらのよび名でよばれることにつ・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・例えば娘の身売りを平気でさせる「貞操に関する観念の極めて鈍感であることを」改善しなければならぬ。「真理道場の第一の使命を農村文化の向上において、科学、哲学、宗教に関する真理文庫をつくったり」、講習をしたりすること、健康増進をはかりたい等説明・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・男の貞操とか女の貞操とか対比的によく問題となってきている。これまで、男といえば菊池氏流に、貞操というようなものはないもの、多妻的本性によって行動するものと単純に自覚されてきているが、現代の青年ははたしてすべてが、そういう単純な生物的な一機能・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・騎士物語の中には、夫である一人の騎士が、友達との張合いから、妻の貞操を賭物として、破廉恥な友人の道徳的なテストに可憐な妻をさらす物語が少くない。中世の女性達は女としての奇智の限りを尽して、非道な奪掠者と闘った。そして自分の愛の純潔と夫への忠・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫