・・・すると丹泉は莞爾と笑って、「この鼎は実は貴家から出たのでござりまする。かつて貴堂において貴鼎を拝見しました時、拙者はその大小軽重形貌精神、一切を挙げて拙者の胸中に了りょうりょうと会得しました。そこで実は倣ってこれを造りましたので、あり体に申・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・それからバクニンは、莫斯科と彼得堡との中間にある Prjamuchino で、貴家の家に生れた人で、砲兵の士官になったが、生れ附き乱を好むという質なので、間もなく軍籍を脱して、欧羅巴中を遍歴して、到る処に騒動を起させたものだ。本国でシベリア・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・ 一つの私事歳暮余日も無之御多忙の程察上候。貴家御一同御無事に候哉御尋申候。却説去廿七日の出来事は実に驚愕恐懼の至に不堪、就ては甚だ狂気浸みたる話に候へ共、年明候へば上京致し心許りの警衛仕度思ひ立ち候が、汝、困る様之・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫