・・・この月初めから話があっての、向うで言うにゃの、おとよさんの事はよく知ってる、ただおとよさんが得心して来てくれさえすれば、来た日からでも身上の賄いもしてもらいたいっての、それは執心な懇望よ、向うは三度目だけれどお前も二度目だからそりゃ仕方がな・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ここの屋根の下に賄いの小川の食堂があって、谷中のお寺に下宿していた学生時代に、時々昼食を食いに行った。オムレツと焼玉子の合の子のようなものが、メニューの中にあった。「味つき」と「味なし」と二通りあった。「オイ、味なし」。「味つき」。そういう・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・ 悪妻は、良人から渡された金がすくないと、それで出来る賄いはこれですよ、とひどいものを並べて辟易させるというさもしい手を心得ている。 贅沢品とりしまりの標準は月収三百円とかいわれているが、これに該当する生活者は日本の全人口の僅何割か・・・ 宮本百合子 「女性週評」
出典:青空文庫