・・・ その夜、近くの大西質店の主人が大きな風呂敷を持ってやってき、おくやみを述べたあと、「じつは先達てお君はんの嫁入りの時、支度の費用やいうて、金助はんにお金を御融通しましてん。そのとき預ったのが利子もはいってまへんので、もう流れてまん・・・ 織田作之助 「雨」
・・・そんなある日堯は長らく寄りつかなかった、以前住んでいた町の質店へ行った。金が来たので冬の外套を出しに出掛けたのだった。が、行ってみるとそれはすでに流れたあとだった。「××どんあれはいつ頃だったけ」「へい」 しばらく見ない間にすっ・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・「なんだい、それは。その角に持って行ってどうするのだい。」「質店でございます。勲章なら、すぐに十マルクは御用立てます。官立典物所なんぞへお持ちになったって、あそこではせいぜい六マルクしかよこしません。なかなかずるうございますから。」・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 家と云うのは、つい近くの、何々質店、信用、軽便、親切と、赤字で書いた大きなアーチ形の広告門をくぐって行った処に在った。 陰気な、表に向った窓もない二階建の小家の中からは、カンカン、カンカンと、何か金属細工をして居る小刻みな響が伝っ・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・季が父の称を襲いで権右衛門と云い、質店の主人となったと云う。 梅本氏はまた香以の今一人の友小倉是阿弥の事を語った。「是阿弥は高木氏で、小倉はその屋号であった。その団子坂上の質商であったことは伝に云うが如くである。是阿弥の妻をぎんと云って・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫