この一二年来、文学的な本を読む読者の数がぐっとふえていることは周知の事実であって、それらの新しい読者層の何割かが、通俗読物と文学作品との本質の区別を知らないままに自身の購買力に従っているという現象も、一般に注意をひいて来て・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・ 大戦前後、先ず高まった一般の購買力のあらわれの一面として自身を表現した読者たちは、あの時代にはやがてそのような景気のいい購買力を失っても猶続く自分たちの社会成員としての力を別様に表現して、日本の文学に新しい息ぶきをもたらす文学上の動き・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・公的な根拠において、国民負担による高給をうけとり、戦争手当をうけとり自分たちの何一つ不自由のない購買組合によってその妻子までを、戦時下の人民一般の苦境にふれる必要ない生活を営ませて来た以上、彼の一生は、公的に導びかれ解決されるべきであった。・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 歴史の或る時期に文化は本質に停頓しつつ、文学の購買力は高騰することがある。作家は、後者と自分の書く腕とを現象的に結びつけて、それを文学的な創作として自分にも云いきかせている危険はどこにもないと云えるだろうか。 今日の私たちにとって・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 家庭購買組合も見たところ大きい規範で経営されてはいるけれど、各戸を実際にまわっている実務員が報酬を歩合い制でもらっているものだから、月の売上げの多額なところへ便宜を計るという致命的な弱点をもっている。少人数の家では少額ならざるを得ない・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・何故なら、必要、不必要、自分に似合う似合わない、その他多くの購買者が必ず持つ私的条件を全く超えて、全くそのもののよしあし、価値を見極めようとするから。そして又、少し眼の肥えた観賞者なら、そう何から何までに感服はすまい。美しいものをしんから愛・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・今日も、文学作品は非常な売行きを見せているが、そこでの大衆は購買力を持ったものという意味で客観的には現れているに過ぎない。自身の文学を作ってはいない。 文学に於けるこの問題はいずれ後段に触れられることだと思うが、当時のこの機運は、例えば・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・それとともに何となし社会の息づかいが乾いていて、何か素朴な、原形のままの人間感情のやさしさや、しなやかさや弾力を感じとりたくて、案外のような人も本を買っている。購買力が高まり、読書する人の層が全く従来の範囲から溢れて来ていることも明白で、そ・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・アメリカは安い商品を如何に多く市場へ販売するかという資本家の慾に発足した商品の大量生産であるが、ソヴェトは目下非常に購買力の高くなったプロレタリアに如何に早く多くの購買力を充たすかという点から起って来る大量生産だ。まだ経済的に余裕がないし、・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・人民の経済生活は極めて危機に瀕しているから、もう一二ヵ月もすれば出版物に対する購買力も低減するだろうからという見越しで、すべての出版業者が、せき立ち焦っているのも、結構と思う。わたし達は、自身が餓えつつあるとき、せめては何が故に、自分達はこ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
出典:青空文庫