・・・薬びん台に載せて始めてよく見ると、葉鶏頭に似た樹冠の燃えるような朱赤色は実に強い色である、どうしても熱帯を思わせる色である。花よりはむしろ鳥類の飾り毛にでもふさわしい色だと思う。頂上を見ると黄色がかった小さい花が簇生しているが、それはきわめ・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・もう一つ立ち入って考えれば甲の感じる赤色と乙の感じる赤色とはどれだけ一致しているものか不確かである。 音についても同様な限界がある、振動数二三十以下あるいは一二万以上の音波はもはや音として聞く事はできぬ。振幅が一定の限度以下でも同様であ・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・その皮の色は多くは始め青い色であって熟するほど黄色かまたは赤色になる。中には紫色になるものもある。普通のくだものの皮は赤なら赤黄なら黄と一色であるが、林檎に至っては一個の菓物の内に濃紅や淡紅や樺や黄や緑や種々な色があって、色彩の美を極めて居・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・なるほどやっぱり陳氏だ、お経にある青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光をやったんだなと、私はつくづく感心してそれを見上げました。全くその蓮華のはなびらは、ニュウファウンドランド島、ヒルテイ村ビジテリアン大祭の、新鮮な朝のそらを、かすかに光・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ するとその赤色のハイカラが云いました。「その通りだ。私はこの人に毎日三十円ずつ払う。払っても払っても元金は殖えるばかりだ。それはとにかく私は又この前のお方に百四十年前に非常な貸しがあるのでそれをもとでに毎日この人について歩いて実は・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 今から十四年前、ソヴェト同盟が新しい社会を建てた時、つまり革命をやった時、沢山の労働者・農民の闘士が赤色戦線でたおれた。間もなく、ひどいチブスが流行して、それでも大勢のものが死んだ。子供も死んだが大人も死んで、孤児がウンとできました。・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・社会・政治指導紙 六種 一、四八七部経済紙 八種 一一二部赤色労働組合紙 一種 七〇部共同組合紙 一種 二四部軍事紙 一種 四・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ソヴェト作家団体連盟と赤色陸海軍作家同盟とは、その具体的なプランを示してくれ。 更にラップは、文学の組織的生産の問題に向ってみんなの注意を喚起した。ソヴェトの全生産は、映画・出版のような文化生産をこめて生産経済計画によってされている。今・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・共青指導部の署名で出された、赤色メーデーを敢行せよ! というビラである。「そういうものが、こっちの方へ却って早く入るんだから妙でしょう」 狡い、ひひという笑いかたで太い首をすくませた。「マァ、この懸け声がどの位実現されるか見もの・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ いま赤色をはられているのは、絵本だった。東洋、西洋、地球上のいろんな民族のプロレタリアートが独特の服装、風景、方法で、その民族独特の生産に従っているところを、明快な彩色画で説明したものである。綿花を栽培し、織物工場で働く耳輪だけ大きい・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫