・・・おくれた日本の映画製作の諸条件は、これからやっと正常な軌道にのせられるはずであるのに、東宝を先頭とする経営者たちは日本文化の課題としての映画製作事業の本質を全然理解しない。軍需会社で儲けたとおりの利率で儲けようとこころみている。この欲望は、・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・経済的に、軍需工業関係者以外の一般人は、物価騰貴のため急速に貧困化している。文化的の面にもその貧困は響いて来ていると同時に、大衆の文化的内容そのものの質が、「依らしむべし。知らしむべからず」的事情の下に貧困化し低下しつつある。大衆の多くを語・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ ところが、他の一面に近頃ではいろいろの軍需工場に多数の女が働いているし、その農村の工業化の問題においても、専門家大河内子爵は、機械製造工程の発達した現在にあっては、安い賃銀の農村の娘が、たやすく、自動車の部分品をも作り得るから、農村工・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・文筆上の軍需景気とユーモアをもってゴシップに現れている武藤貞一という人が思い出されるのは、単なる偶然ではなかろう。 日本の文脈ということについて極端にさかのぼってだけ考える人々の間には、漢語で今日通用されている種々の名詞や動詞を、やまと・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・ こういう公私の逆立ちは、軍需生産で儲けた人々の全生活を支配した。食糧問題、それにからむ土地問題、住宅問題、失業問題、道徳の頽廃の諸相。それは、引つづいて日本の社会を混乱させる公私逆立ちの形として現われている。支配者たちは、人民の公器た・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・戦時中、大軍需会社の下うけをやっていて、小金をためたような小企業家が、さて、敗戦と同時に、何か別途に金をふやす方法をさがした。軍部関係で闇に流れた莫大な紙があった。戦後、続出した新興出版事業者は、ほとんど例外なしに、この敗戦おきみやげたる紙・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ 軍需工場内で、労働強化に抗して起とうとする労働者を抑圧するために、天皇制権力は昨今夢中になってやっている。記録的な分裂メーデーが今年行われた所以だが、企業内の大衆を現在の情勢ではただ上から押えつけたのではもう通用しない。逆に闘争へ立た・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・新興財閥はすべて軍需企業家であった。集中排除法は、そういう企業とその経済力に向けられたものであった。それが緩和されるときいて、安心のため息をつき、案ずるがものはなかったのさ、と云っているのは、決して決して日本の人口の九割五分をしめる勤労階級・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・現代の科学力は、それが国際的な軍需生産者の独占資本に使役されるとき、戦争行為におかれた国々の軍事的拠点に、想像できないほど巨大な破壊力を加えるばかりでなく、その周辺の全く無罪な人民の生命を、老若の差別なくみな殺しにする。この事実はナガサキと・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・しかし、同じ戦敗のドイツの中でも、そしてあの世界史的なドイツのインフレーションの中でも、第一次大戦によって軍需成金となった新興財閥は存在した。それら一握りの新マーク階級の人々は彼等の特権にとって有利でない人民的な生産様式にドイツの社会が進化・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
出典:青空文庫