・・・この年は戦争の進行につれて軍需生産を中心とする日本経済の「軍需インフレ」の無責任な活況が起った。インフレ出版、インフレ作家というよび名さえ起った。しかし文学の実質は低下の一線をたどった。戦争遂行目的のために作家と文学の動員されることはますま・・・ 宮本百合子 「年譜」
夫人の虚栄心から出入りの軍需工業会社員から金銭を収受し、ついに夫の地位と名誉にまで累を及ぼした植村中将の事件についていって見たい。 こういう事件はやはり昨今の一部にかたよった景気につれて起った事でしょう、ま・・・ 宮本百合子 「果して女の虚栄心が全部の原因か?」
・・・働き先は、この場合にも軍需産業が第一位を占めている。調査に対して答えたこれらの家庭婦人たちの就職の動機は、銃後奉公、遊んでいてはもったいないという云いあらわし方が多数を占めているけれど、大部分の主婦たちが今後長くつづけて働きたいという希望を・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・おどろくほど戦争協力者がまぎれ込んでいる。軍需参与官やら、海軍司政官までが当選しているし大日本婦人会の理事で当選している婦人もある。 婦人代議士は、三九名も選出された。そして、今のところ、人気の焦点となっている。けれどもしんみりと考えた・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・ 戦争がだんだん大規模になって行った時期、軍需会社は大小を問わず儲けはじめた。ひところは小さい町工場でも人をふやして、下受け仕事に忙しくなった。けれども、一つ町内でそういう風に戦時景気に便乗していくらかでも甘い目を見た家の数と、毎日毎日・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・今日軍需景気で絵画の偽作が横行する。それも主として日本画の贋物が多いということ、東京郊外の畑や藪が分譲となっておどろくばかりの売れ行を示しているということ。市内のデパートで百円以上の反物が飾窓に出されて数時間のうちに売れてしまうということ、・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・ 一九三九年ごろの軍需インフレーション時代、出版インフレといわれた豊田正子『綴方教室』小川正子『小島の春』などとともに、野沢富美子という一人の少女が『煉瓦女工』という短篇集をもって注目をひいた。「煉瓦女工」は、荒々しく切なく、そして・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・地方の農村の国民学校が、すべて学業よりも草刈り、繩作りと軍需供出にせめたてられていた最中に、先生としてすべての労作に耐えて来ました。 良人が亡くなられてから、上京して暫く国民学校につとめ、近頃は大町さんの最も愛する仕事、日本の働くすべて・・・ 宮本百合子 「婦人の皆さん」
・・・ 六七年前、インフレーションがはじまって、それはまだ軍需インフレと呼ばれていた頃、書籍とインフレーションの関係で、新しい插話が生れた。その中に、インフレーションで急に金まわりのよくなった若い職工さんが、紀伊国屋書店にあらわれて、百円札を・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・すべてのドイツの人がファシストだとか、そこに責任があるというのでなく、地主、軍需生産者、旧軍人の権力であるファシズムの権力を、動揺的な小市民層、学生などがうけ入れたということが今日のドイツの人々をあれほど悲惨にし、食べるものもない、着るもの・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫