・・・ます小ブルジョアの無気力を助長するような自嘲、自己嫌悪を吹きこみ、労働者の側からはその現象をさながら動かすことのできないインテリゲンチアの特性であるかのように愚弄するような社会的空気がかもされている。転向の問題などもその一つの現れであろう。・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・によって先頭をきられた一系列の作家の作品の出現によって愈々暗鬱なものとなった。転向文学という一時的な概括で云われたこれらの作品の特徴は、知識人としての作者たちが時代の中に経た生活と思想経験の歴史的な価値と意味とを我から抹殺して、一つの理想に・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・一九四〇年春ごろから非転向の人たちだけの統一公判がはじまった。事件のあった時から足かけ八年目である。 転向を表明した人々の公判が分離して行われ、大泉兼蔵の公判も行われた。当時傍聴席は、司法関係者と特高だけで占められていた。家族として傍聴・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・『大法輪』という四百六十余頁の大宗教雑誌は新年特輯に「転向者仏教座談会」を催し、そこの婦人記者となった長谷川寿子は、自身の略歴を前書にして「遂に過去の一切の共産思想という運動を清算し」大谷尊由に対談して、長谷川「歎異鈔なんか拝読いたしますと・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・「急進的な小ブルジョア作家たちの、労働階級への転向は、プロレタリアートが資本主義との闘争において小ブルジョア的労働者の広汎な大衆を自分の側にひきよせることをしめしているものである。」 それ故「小ブルジョア作家、文学者たちを資本主義か・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・ 読者に奇異の感を与えるそのような冒頭の文句ではじまる、長文の上申書の終りは、かつての転向上申書の書式を思わせ、共産党への罵倒と「いかなる罰も天命であって人智のなすべからざるところと。そして後、新たなる魂をもって邦家のために生き抜こうと・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・親や家族のものが、本人にとってたえがたい裏切りや転向のために、いろいろとたくらむのは、みんな権力がその人たちをおどすからである。集団的な自主の行動を、おそろしいことのように、わるいことのように思わせるからである。 憲法・民法が個人の自由・・・ 宮本百合子 「肉親」
・・・ 此の日は、自分に、一生の運命の或決定的な転向を暗示した時である。 人生観の裡に含まれた、多くの曖昧さ、其等は皆、所謂よい家庭の習俗と、甘い、方便に安んじ得る妥協的な利己から来て居たものが、明かな光に照り出された。 ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・我々は今人間生活の大きい厳粛な転向点に立っているのである。三 現戦争がこのように大きい変革を世界史の上にもたらすとすれば、戦後の芸術はどうなるであろうか。 第一に考えられるのは、一般民衆が勢力を得るとともに、在来の貴族的・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
一 過去の生活が突然新しい意義を帯びて力強く現在の生活を動かし初めることがある。その時には生のリズムや転向が著しく過去の生活に刺激され導かれている。そうしてすべての過去が「過ぎ去って」はいないことを思わせる。機縁の成熟は「過去」・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫