・・・――昨夜の鶫じゃないけれど、どうも縁あって池の前に越して来て、鯉と隣附き合いになってみると、目の前から引き上げられて、俎で輪切りは酷い。……板前の都合もあろうし、またわがままを言うのではない。…… 活づくりはお断わりだが、実は鯉汁大歓迎・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・パリの朝食のコーヒーとあの棍棒を輪切りにしたパンは周知の美味である。ギャルソンのステファンが、「ヴォアラー・ムシウ」と言って小卓にのせて行く朝食は一日じゅうの大なる楽しみであったことを思い出す。マデレーヌの近くの一流のカフェーで飲んだコーヒ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・殊に五月時分、はしりの胡瓜をなまのまま輪切りにして塩をつけてたべるのは、毎年その季節の楽しみの一つです。 嫌いなものといえば、何よりも先ず納豆です。北国の人は一体納豆を好むようですが、わたくしは、福島県の生れですし、父祖の生れは山形県で・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
出典:青空文庫