・・・濤の轟きなどという壮快なのはない。虹ヶ浜へは去年のお正月行って海上の島の美しい景色を眺めました。でも大変風がきつかった。そして、さむくあった。 黒海は実に目醒めるばかり碧紺の海の色だのに、潮の匂いというものはちっともしないので、私は、あ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 一 年の瀬という表現を十二月という歳末の感情に結びつけて感じると、今年は年の瀬を越すなどというものではなく、年の瀬が恐ろしくひろい幅とひどい勢いでどうどうと生活もろとも轟き流れている気がする。一年の終りの月と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・人民の生活は、燃える空と轟き裂ける大地の間に殲滅される。戦争は、人民にとって直接生命の問題である。命あっての物種、というその命をじかに脅かされることであるから、生命保存のために、人々の全努力が、瞬間の命を守るたたかいに集注される。 絶え・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ヴィンダー 俺の大三叉が、恐ろしい鉄の轟きで天を震わせなくなってから、よい程時が経ったわ!ヴィンダーブラ、やがて、きっときき耳を立て、起き上る。ミーダ 何だ? 皆の足音でもするか?ヴィンダー違う! 遽しい、わくわくし・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・涙で頬をぬらしながら、なお、その身内をせき上げるような熱い轟きを追って画面に見入っているひろ子の心の視野に、丁度その隊伍の消え去ろうとするかなたから、二重映しになって一人の和服姿の男が、風呂敷包みを下げ、草履ばきでこちらに向って歩いて来るの・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・仲間と、左様云う処にかたまり、計画を立て、わーっと声をあげて馳け出す時の心持には、大人の知らない、胸の轟きがあるものだ。 けれども。――疲れた時、コンセントレートしたい時、節穴さえあるかもしれない板一枚の彼方で、此、手ばなしの大騒ぎをや・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫