・・・その代り、百円分の薬を無代進呈する。 ……いきなり二百円を請求された支店長たちは、まるで水を浴びた想いに青く濡れた。六百円の保証金をつくるのさえ、精一杯だったのだ。それを、この上どこを叩いて二百円の金を出せというのか。しかし、出さねば、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・鴨一羽、そのうち、とったら進呈するがね、しかし、それには条件がある。その鴨を、俺と修治と奥さんと三人で食って、その時に修治は、ウイスキイを出して、そうして、その鴨の肉をだな、まずいなんて言ったら承知しねえぞ。こんなまずいもの、なんて言ったら・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・んちきの万年筆を、あやしげの口上でのべて売っているのだが、なにせ気の弱い、甘えっ子だから、こないだも、泉法寺の縁日で、万年筆のれいの口上、この万年筆、今回とくべつを以て皆さんに、会社の宣伝のため、無代進呈するものであります、と言って、それか・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・丁度持合せていたMCCかなんかを進呈してマッチをかしてやったら、「や、こりゃあ有難う有難う」と何遍もふり返っては繰返しながら行過ぎた。往来の人が面白そうににこにこして見ていた。甚だ平凡な出来事のようでもあるが、しかしこの事象の意味がいまにな・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・その時袁世凱がしきりにそこに陳列されていた一つの宝石をほめ、そのほめかたは、その宝石を進呈しようと云わせるまでつづくようだったということも。軍閥の巨頭袁を、立憲共和の新しい中華民国の大総統に推さざるを得なかったことが、最大の過誤であったとい・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
・・・もちろん私はよろこんで、半ペラの新しいのを一綴進呈いたしました。 十二月十七日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 十二月十二日 第二十三信 この手紙では林町の生活のことを主として書きましょう。 事務所は依然八・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫