・・・第四にはセットの道具立てがあまり多すぎて、印象を散漫にしうるさくする場合が多い。たとえば「忠弥」の貧民窟のシーンでもがそうである。セットの各要素がかえって相殺し相剋して感じがまとまらない。これらの点についても、監督の任にある人は「俳諧」から・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・このレヴューからあらゆる不純なものをことごとく取り去ってしまったもの、ちぐはぐな踊り子の個性のしみを抜き、だらしのない安っぽい衣装や道具立てのじじむささを洗い取ったあとに残る純粋の「線の踊り」だけを見せるとすれば、それは結局このフィッシンガ・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・それには寒空に無帽の着流し、足駄ばき、あごの不精ひげに背の子等は必要で有効な道具立てでなければならない。 そう考えて来ると、第一この男が丸の内仲通りを歩いていて、しかもそこで亀井戸への道を聞くということが少し解しにくいことに思われて来る・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・そこへおあつらえ通り例の夕刊売りが通りかかって、それでもう大体の道具立ては出来たようなものである。これでこの芝居は打出してもすむ訳である。 それではしかし見物の多数が承知しないから最後の法廷の場がどうしても必要である。あるいはむしろこの・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・メフィストの低音が気に入りました。道具立ての立派で真に迫ること、光線の使用の巧みなことはどこでも感心します。音楽の始まる前の合図にガタンガタンと板の間をたたくような音をさせるのはドイツのと違っていて滑稽な感じがしました。最後の前の幕にバレー・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・これらの経験を総合して知識とし知識を総合して方則を作るまでには種々な抽象的概念を構成しそれを道具立てとして科学を組み立てて行くものである。この道具になる概念は必ずしも先験的な必然的なものでなくてもよい。以上のごとく科学を組み立て、知識の整理・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・今年の冬は、なるたけ火鉢を入れず、よく日に当りという方向で注意するつもりです。道具立てなかなか面白しいろいろの絵の展覧会がありますが、ひまがなくて。つい時間がおしくて。今竹内栖鳳やその他無カンサ組の文展招待展というのも別コにあって、殆どどれ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・つる公も椅子テーブルの方が疲労が少ないから大いにそれでやると云っているが、いつその道具立ては出来ることやら。 私のベッドというと人聞きがよいけれど実は、そのベッドには本式のマトレスはまだついていないのです。普通の敷布団がのっかっているの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・この作品が道具立てとしてはさまざまの社会相の面にふれ、アクつよきものの諸典型を紹介しようと試みつつ、行間から立ちのぼって最後に一貫した印象として読者にのこされるものは、ある動的なもの、強靭で、肺活量の多いものを求めている作者の主観的翹望であ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・土地の樹木の枝、葉など概して細々密接してついて居ると同じに、行き合う男の容貌、概して道具立てこまかく、手堅そうについて居るところ、興味あり。 美しき富士山を見た。春先のような葉の色のおんばこ、薊を処々に見る。・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
出典:青空文庫