・・・そう云う意味のある地位に置かれたハルナックが、少しでも政治の都合の好いように、神学上の意見を曲げているかと云うに、そんな事はしていない。君主もそんな事をさせようとはしていない。そこにドイツの強みがある。それでドイツは世界に羽をのして、息張っ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ところでわたくしのためにはそれが好都合だったのです。翌日わたくしが急いでオペラ座へ往って見ますと、お母あ様と御夫婦とでちゃんと桟敷にいらっしゃったのですね。 女。そこで。 男。それをあなた平気でわたくしにお聞きになるのですか。 ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・一作は次ぎの一作とは全く独立はしているとしても、作者の意識というものは左様に都合よく独立し得られるものだとは私には思えない。『春琴抄』における眼を突く時間の早さについてうんぬんしたのも、私にはここに意見があったのである。 ついでに宇野浩・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・その点から考えると、気温の最も低くなる明け方が、最も開花に都合のいい時刻であるかもしれない。しかしそれにしても、あの妙な音は何だろう。それを船頭にただしてみると、船頭は事もなげに、あああれだっか、あれは鷭どす、鷭が目をさましよる、と言った。・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫