・・・幸福クラブ、誕生の第一の夕、しかし最初の話手が陰惨酷烈、とうてい正視できぬある種の生活断面を、ちらとでもお目にかけたとあっては、重大の問題、ゆゆしき責任を感じます。ありがたいことには、神様、今いちどだけ、私をおゆるし下さいました。たそがれ、・・・ 太宰治 「喝采」
・・・私はこのごろ、たいへん酷烈な結論を一つ発見いたしました。貴族はエゴイストだ、という動かぬ結論でございます。いいえ、なんにもおっしゃいますな。やっぱり、ご自分おひとりのことしか考えて居りませぬ。ご自分おひとりの恰好のためにのみ、死ぬるばかり苦・・・ 太宰治 「古典風」
・・・の音が、どぶんどぶんと聞える。遠い孤島の宿屋に、いま寝ているのだという感じがはっきり来た。眼が冴えてしまって、なかなか眠られなかった。謂わば、「死ぬほど淋しいところ」の酷烈な孤独感をやっと捕えた。おいしいものではなかった。やりきれないもので・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・被告タル酷烈ノ自意識ダマスナ。ワレコソ苦悩者。刺青カクシタ聖僧。オ辞儀サセタイ校長サン。「話」編輯長。勝チタイ化ケ物。笑ワレマイ努力。作家ドウシハ、片言満了。貴作ニツキ、御自身、再検ネガイマス。真偽看破ノ良策ハ、一作、失エシモノノ深サヲ計レ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・ 私、幼くして、峻厳酷烈なる亡父、ならびに長兄に叩きあげられ、私もまた、人間として少し頑迷なるところあり、文学に於いては絶対に利己的なるダンディスムを奉じ、十年来の親友をも、みだりに許さず、死して、なお、旗を右手に歯ぎしりしつつ巷をよろ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫