・・・降雨のあとに湿っぽい雪がたくさん降って、それが樹冠にへばりついてその重量でへし折られたそうである。こういう雪の山路に行き暮れて満山の雪折れの音を聞くということは、想像するだけでも寒いようである。 ホテルの三階のヴェランダで見ていると、庭・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・遺憾ながらそのシガーの大きさや重量や当日の気温湿度気圧等の記載がない。この競技は速度最小という消極的なレコードをねらうところに一種特別の興味がある。できるだけのろく燃えるという事と、燃えない、すなわち消火するという事とは本質的にちがうのであ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・この場合は重量を加えて糸を引き切る場合に類す。しかしともかくも歪みが増すに従って現象の発生を期待する公算の増加するは勿論にて、従って歪みがある程度に達するまでは現象は起らずと安心すべき根拠を与うべし。この場合に当り、時とともに現象の発生に対・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・樹の幹や枝の弾性は果してその重量に堪え得るや否や覚束ない。あるいは藁苞のような恰好をした白鳥が湿り気のない水に浮んでいたり、睡蓮の茎ともあろうものが蓮のように無遠慮に長く水上に聳えている事もある。時には庇ばかりで屋根のない家に唐人のような漱・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・そのうちに蜂は一度羽根を拡げて強く振動させた、おそらく飛び上がろうとしたのであろうが、虫の重量はこの蜂の飛揚力以上であったと見えて少しも動かなかった。どうするかと思っていると、このやや長味のある団塊をうまく二つに食い切って、その片方を丁寧に・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・たとえばガラス板を平坦な台の上に置いて上から鉄の球を落として放射線形の割れ目を生ずるという場合に、板の厚さや、球の重量や落下の高さを一定にしてみても、生ずる割れ目の線の数や長さは千差万別であってなかなか一定しない。多数の実験を繰り返せば統計・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・例えば天秤で重量を測るにしても、箱の片側に日光が当って箱の中の空気の対流を生じたり、腕の比が変ったり、蓋の隙間から風がはいったり、刃のところに塵がたまっていたり、皿に水滴が付いていたりするのに、このような事には一切構わず、ただ機械的に「物理・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ 触感によって温度や重量の判断をする場合にもいっそう不確かなものである。冷熱の感覚はその当人の状態にもよりまた温度以外にその物体の伝導度によるのである。寒暖計の示度によらないで冷温を言う場合にはその人によってまるでちがった判定を下す事に・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・定まった弾条に定まった重量を吊し、定まった温度その他の同時的条件を一切一様にしても、その長さは一定しないのである。すなわち過去において受けた取扱い如何によって種々の長さを与えるのである。一匁の分銅を一分間吊した後と、一時間あるいは一昼夜吊し・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・に比例して、からだのどこかに妙なくすぐったいようなたよりないような感覚が起こって、それがだんだんからだじゅうを彷徨し始めるのである、言わばかろうじて平衡を保っている不安定な機械のどこかに少しのよけいな重量でもかかると、そのために機械全体のつ・・・ 寺田寅彦 「笑い」
出典:青空文庫