・・・僕はあの頃――屯の戦で負傷した時に、その何小二と云うやつも、やはり我軍の野戦病院へ収容されていたので、支那語の稽古かたがた二三度話しをした事があるのだ。頸に創があると云うのだから、十中八九あの男に違いない。何でも偵察か何かに出た所が我軍の騎・・・ 芥川竜之介 「首が落ちた話」
・・・そこからまた一千メートル程のとこに第○師団第二野戦病院があって、そこへ転送され、二十四日には長嶺子定立病院にあった。その間に僕の左の腕が無うなっとった。寝台の上に仰向けになったまま、『おや腕が』と気付いたんやが、その時第一に僕の目に見えたん・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・葛西金町を中心としての野戦の如き、彼我の五、六の大将が頻りに一騎打の勇戦をしているが、上杉・長尾・千葉・滸我らを合すればかなりな兵数になる軍勢は一体何をしていたのか、喊の声さえ挙げていないようだ。その頃はモウかなり戦術が開けて来たのだが、大・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
一 彼の出した五円札が贋造紙幣だった。野戦郵便局でそのことが発見された。 ウスリイ鉄道沿線P―の村に於ける出来事である。 拳銃の這入っている革のサックを肩からはすかいに掛けて憲兵が、大地を踏みなら・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ けれどもX光線の設備に、なくてならない電気さえひかれていないような野戦病院へ殺到して来る負傷者たちをどうしたらいいだろう。キュリー夫人はある事を思いついた。フランス婦人協会の費用で光線治療車というものを作った。これはヨーロッパでもはじ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・何年のこと、がはっきり示されると、日本じゅうのどっさりの読者の心に、俺の時代はこうだったと自分たちの軍隊生活の経験、野戦での経験が思い出されて来て、作品はいっそう感動をもってよまれる。同時に、どこかでまた、ああ小沢の時代はこうだったか、自分・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・市街戦の惨状が野戦よりはなはだしいと同じ道理で、皿に盛られた百虫の相啖うにもたとえつべく、目も当てられぬありさまである。 市太夫、五太夫は相手きらわず槍を交えているうち、全身に数えられぬほどの創を受けた。それでも屈せずに、槍を棄てて刀を・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫