・・・酒屋の払いもきちんきちんと現金で渡し、銘酒の本鋪から、看板を寄贈してやろうというくらいになり、蝶子の三味線も空しく押入れにしまったままだった。こんどは半分以上自分の金を出したというせいばかりでもなかったろうが、柳吉の身の入れ方は申分なかった・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・「あの『じじい』はあの年をつかまつって居て銘酒屋の女房と馳け落したんですよ。 勿論女房も子供もない一人ものでしたがね。 相手の女はいくつだと思います、 五十六なんですよ」ってね。」 私は老ぼれた馳け落ちものが・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・「それがね、千束から来た方なんですよ、女の人は来ていないかって――どうも銘酒屋さんか何かの主人らしゅうござんすよ」「へえ」 藍子の、意外そうな表情を見て、神さんは、「あなた何にも御存じなかったんですか」と云った。「知・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫