・・・婦人作家としてあれほどの努力家であり、鍛錬も積まれている野上さんでも、ああいう自分の妻、母として直接に生活に迫って起った問題に対しては、あの作で扱われた範囲においては、結局良人の世界観の限界を自身の芸術家的限界としてしまっている点、そのよう・・・ 宮本百合子 「女流作家多難」
・・・時代に欠けていた発表場面の自主的な開発、あるいは文学的技術の鍛錬、よりひろい範囲で文学の創造的エネルギーを進歩的な方向において、包括しようとする活動などがそれぞれの刊行物を中心として活溌に行われているわけである。刊行物を中心とするグループも・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ての期待がかけられるのならば、それらのあらゆる現実を落着いて自分たちの経てゆく生活史のなかにうけとりつつ、歴史に消耗されず、そこからめいめいの建設を見出してゆかなければならない、そのような今日の時代の鍛錬が今日の若い世代を、小市民らしい自己・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・部下の武士たちへの訓戒もそこから来ているのであって、武術の鍛錬よりも学問や芸術の方を熱心にすすめているのは、そのゆえであろう。力をもって事をなすは下の人であり、心を働かして事をなすのが上の人であるとの立場は、ここにもうはっきりと現われている・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・そこにはただ修道と鍛練との精進生活があったばかりではない。むしろあらゆる学問、美術、教養などがその主要な内容となっていた。あたかも大学と劇場と美術学校と美術館と音楽学校と音楽堂と図書館と修道院とを打って一丸としたような、あらゆる種類の精神的・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・ そこでこの青春を、心の動くままに味わいつくすのがいいか、あるいは厳粛な予想によって絶えず鍛練して行くのがいいか、という問題になります。 青春は再び帰って来ない。その新鮮な感受性によって受ける全身を震駭するような歓楽。その弾性に充ち・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・ それでは青春を厳格に束縛し鍛錬して行くのがいいか。――もちろんそれはいい事です。青春期に道義的情熱をあおり立てるのは、どの他の時期よりも有効です。しかしこの事は多くの場合に方法を誤られていると思います。なぜなら、道義的情熱は内から必然・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・私は自己鍛錬によってこれらのものを焼き尽くさねばならぬ。しかし同時に私は自分の内に好いものをも認める。私はそれが成長することを祈り、また自己鞭撻によってその成長を助けることに努力する。これらのことのほかに、私は自己を最も好く活かす方法を知ら・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・ そうして私はここにも自分の上に鍛錬の鉄槌を下すべき必要を感じたのであった。三 私は思った。私は自分の努力の不足を責める代わりに、仕事がうまく行かなかったことでイライラする。自分の生活の弛緩を責める代わりに自分がより高く・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・彼は自己鍛錬の苦しい道を経ないで、社会救済の自信と力とを得た人のように見える。彼はその理想の情熱と公憤との権利をもって、何の遅疑する所もなく、大胆に満腹の嘲罵を社会の偽善と不徹底との上に注ぐのである。 しかしドストイェフスキイのメフィス・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫