・・・ すると、かもめは、急ぐ翼をゆるくして、からすとしばらくの間道連れになりました。「私は二、三日前に、ずっと南の都から出立しました。去年の冬はにぎやかな都で送りました。もう夏になって、北の海が恋しくなったので帰るところですよ。」と、か・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
・・・それらの通路の中には国道もあり間道もあり、また人々によって通い慣れた道と、そうでないのとがある。それで今甲の影像の次に乙の影像を示された観客はその瞬間においてその観客の通い慣れた甲乙間の通路の心像を電光に照らされるごとく認識するのであろう。・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・そうして思いもかけぬ間道を先くぐりして突然前哨の面前に顔を突き出して笑っているようなところがある。 もっとも、ラマンのまねをするつもりで、同じように古くさい問題ばかりこつこつと研究をしていれば、ついにはラマンと同じように新しい発見に到達・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・そのへんからは土堤の左右に杉の古木が並木になり、上熊本駅へゆく間道で、男女の逢引の場所として、土地でも知られているところだったが、三吉にはもはやおっくうであった。「あの、深水さんがね、貴方のことを――」 夕闇の底に、かえってくっきり・・・ 徳永直 「白い道」
・・・これが己の求める物に達する真直な道を見る事の出来ない時、厭な間道を探し損なった記念品だ。この十字架に掛けられていなさる耶蘇殿は定めて身に覚えがあろう。その疵のある象牙の足の下に身を倒して甘い焔を胸の中に受けようと思いながら、その胸は煖まる代・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ここより薬師堂の方を、六里ばかり越ゆけば草津に至るべし、是れ間道なり。今年の初、欧洲人雪を侵して越えしが、むかしより殆ためしなき事とて、案内者もたゆたいぬと云。 廿四日、天気好し。隣の客つとめて声高に物語するに打驚きて覚めぬ。何事かと聞・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・狭い間道をくぐる思いで、梶は質問の口を探しつづけた。「俳句は古くからですか。」 これなら無事だ、と思われる安全な道が、突然二人の前に開けて来た。「いえ、最近です。」「好きなんですね。」「おれのう、頭の休まる法はないものか・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫