・・・ 自分の影を、死神と間違えるんだもの、御覧なさい、生きている瀬はなかったんですよ。」「心細いじゃありませんか、ねえ。」 と寂しそうに打傾く、面に映って、頸をかけ、黒繻子の襟に障子の影、薄ら蒼く見えるまで、戸外は月の冴えたる気勢。・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・科学の歴史は一面から見れば間違いの歴史である。間違える事なしには研究は進められない。誤魔化さないことだけが必要である。 小学校でも中学校でもせめて一週間に一時間でもいいから、こういう「自由研究」の時間を設けて、先生も生徒も一緒になって、・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・また同じ人の名が色々な住所と結合してぱらぱらに散在しているので、どれが現住所であるか、当人でさえ時々間違えることがありそうである。年賀はがきを大切にしまっておくのももっともな訳である。ただし市会議員のよこしたのだけは紙くずかごに入れるようで・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
出典:青空文庫