・・・ あの八月九日の夜、新京から真先に遁走を開始した関東軍とその家族とは、三人の子をつれて徒歩でステーションに向う著者にトラックの砂塵をあびせ、列車に優先してのりこみ、ときには飛行機をとばして行方のわからない高官の家族の所在をさがさせまでし・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・中国の民衆を愚昧無気力にしておくために関東軍は阿片を売った。民主日本の航路から大衆の精悍さを虚脱させるために空腹時のエロティシズムは特効がある。文学における大衆性の本質は、決して大衆の一部にある卑俗性ではない。幾千万の私たち大衆が、つつまし・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・その人から借りたわけでしたが、当時はぼんやりしていたが、満州事件が起ってから新聞で見ると、かつて大家であった本庄という軍人は、外ならぬ関東軍指令官の本庄大将であるのが分って、ほほう、というような訳でした。 この小説は題が示す通り、一人の・・・ 宮本百合子 「「伸子」について」
出典:青空文庫