・・・若い時分は孤児で乞食をして生き、レース編みを覚えてからはその勝れた腕前で食っていた祖母は、どん底の閲歴の中から不思議な程暖い慾心のない親切と人間の智慧のねうちに対する歪められない信頼とを身につけていた。民謡を上手に唄い、太った体つきのくせに・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・ 筆者の閲歴などについて全然知らないから、その文章についての限りの印象だけれど、集団聴取その他様々の放送事業の新しい歩み出しが望まれている文章の題に、やはり今日のラジオ性が反映して、「放送新体制」というようないいつづけかたがされているの・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
・・・漱石は、彼が生きた時代と自身の閲歴によって、日本の知識人の日常生活の桎梏となっている封建的なものに、最も切り込んだ懐疑を示した作家であった。けれども、一面では、自分の闘おうとしているものに妥協せざるを得ない歴史の遺産が彼の心の中にあって生き・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・その閲歴から見て狂熱的な一向宗信者であったと推測せられるが、しかしキリシタンの宣教師の報告によると、家康の重臣中では彼が最もキリシタンに同情を持っていたという。慶長六年には彼はオルガンチノに対してキリシタンをほめ、その解禁のために尽力した。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫