・・・といって立候補しながら議会開会の全期間をつうじてその議場の演壇からもっとも雄弁にうったえることができたのが今日の醜態事件についてであるということは、またブルジョア婦人代議士の悲惨なる境遇をものがたっています。〔一九四八年十二月〕・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・手をあげて擲るのは自分の女房だけであるが、それはつまり彼のもっている女性観の雄弁な実践と云える。インガに対してだって、心服なぞはしていない。女の工場管理者に心服なんかするのは労働者の男の恥だ、そう思っているのであった。 夜、工場クラブで・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・歴史をひもとくと、燃き物と紙の有無とは、常にその社会生活の一般状態を雄弁に物語っているようです。作家の思いは、原稿紙がなくなればどんな紙切れへでも、その紙切れへものをかくような時代の作品を書こうと思っているのでしょう。歌をうたうかたは、唱っ・・・ 宮本百合子 「裏毛皮は無し」
・・・等によって大衆文学の領域に進み出し、テーマの常識性、合理性の日本らしく低められた水準、要素そのものによって成功をかち得て今日に到っている現実に雄弁に語りつくされていると思われるのである。 菊池寛は「義民甚兵衛」の生と死とを、あくまで人間・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・私は、彼の雄弁の断れ目をねらって、「ひどく殖えますか」と訊いた。「いや、フランスのマカロニはずっと殖えますが、このイタリーの方はそんなじゃありません。――直観なすったところじゃ違いませんが、水分をふくむから召上りではあります」・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・でも丈夫そうで澄んで大きいいい眼付をしていて、やっぱり何だか要領を得ずニコニコしている顔は雄弁に感情を語るのだが、口の方は一向駄目で、変に隅によっかかったような恰好をして、本当にあの人らしいと云ったら! 大笑いです。私は二十三日にお目にかか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 一年間の最も雄弁な教訓は、これ等の婦人代議士が女は女の生活をよく知っているということを、選挙演説の中心においてたたかい、婦人有権者も女は女へと思って、そこに希望をかけて投票したことが、まったく無意味であったということです。 婦人代・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・これが平生寡言沈黙の人たる博士が、天賦の雄弁を発揮する時である。そして博士に親しい人々、今夜この席に居残っているような人々は、いつもこういう時の来るのを楽み待っているのである。 博士は虚になった杯を、黙って児髷の子の前に出して酒を注がせ・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・なんにしろ、あの垣の上に妙な首が載っていて、その首が何の遠慮もなく表情筋を伸縮させて、雄弁を揮っている処は面白い。東京にいた時、光線の反射を利用して、卓の上に載せた首が物を言うように思わせる見世物を見たことがあった。あれは見世物師が余り p・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・この劇的雄弁術を演技だと考えていた吾人は、デュウゼが新しい考え方と演じ方とをもって出現するに及び革命に逢着した。デュウゼにとっては動作は終局でない。真の演技の邪魔となるに過ぎない。彼女にとっては最も大なる瞬間は最も深い静寂の時である。情熱を・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫