・・・白熊は、自分の毛皮から放射する光線が遠方のカメラのレンズの中に集約されて感光フィルムの上に隠像の記録を作っていることなどは夢にも知らないで、罪のない好奇と驚異の眼をこの浮き島の上の残忍な屠殺者の群れに向けているのである。撮影が終わると待ち兼・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・水流の場合には一般に流線の広がる時に擾乱が起こるが流線が集約する時にはそれが整斉される、あれと似たことがありはしないかとも考えられる。これらもすべて大胆すぎた想像であるが一つの暗示として付記する。 リヒテンベルグの場合に放電板の裏側にで・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これは伊那盆地から松本平へ吹き抜ける風の流線がこの谷に集約され、従って異常な高速度を生じたためと思われた。こんな谷の斜面の突端にでも建てたのでは規準様式の建築でも全く無難であるかどうか疑わしいと思われた。 地震による山崩れは勿論、颱風の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・マルクス=エンゲルスの論理的な文章と日本語の構成的集約的でない言語の性格との間から、がたがたしたところができていたのだろう。 こんど新しくマルクス=レーニン主義研究所からもっとも信頼できる人々の手でマルクス=エンゲルス選集が出版されるこ・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・その答えが、余り集約的に、今日の日本の破局的な各方面の事情を反映していることに、解答者自身おどろかざるを得まいと思う。この一つの「何故」への具体的な答えには、農林大臣が米の専売案を語り、それと全く反対に農林省の下級官吏は結束して大会をもち、・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・悲壮という複雑な人間的感情の集約的表現は、ちょっとという小量を示す形容詞によって、軽佻化され、なおざりのものとされ、読者は作者の浮腰を感じるのである。このような例は、この部分一ヵ所ではない。「幼き合唱」は濫費されている字数にかかわらず何・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・の様ないきさつに這入った事には、今日の映画会社の経営方法、スターの製作法、給金は少いのに派出にばかり振舞わなければならない映画会社での無理、その他実に多くの今日の社会の矛盾や、片手落ちが暁子の例の中に集約されています。 私共女は暁子の様・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・能や仕舞は庶民生活の中から自然にわき出した動作が要約され芸術化されたものではなくて、貴族生活、武士生活の感情と思想とが洗練し集約しつくした動きに象徴されたものである。習ってゆく道すじから云うと、能や仕舞ほど形式への絶対の服従を求める芸は殆ど・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・少年が最初の自我を自分の肉体の上に発見するように、未熟な近代日本の精神が今日においてさえ一番よくわかる人間性として自分たちの肉体の性的行為で集約・表現しようとしているのは深く考えさせられるところです。 昨今注目されているデカダンス、エロ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・メイエルホリドの特徴はこの点に集約されていると云える。 ところで、まだ誰にも、ハッキリ分らないことが一つある。それはソヴェトの五ヵ年計画と――刻々に前進する社会主義の社会の現実とメイエルホリドが独特性としている芸術理解の特色=極端な様式・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫