・・・ ころ柿のような髪を結った霜げた女中が、雑炊でもするのでしょう――土間で大釜の下を焚いていました。番頭は帳場に青い顔をしていました。が、無論、自分たちがその使に出ようとは怪我にも言わないのでありました。 二「・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・すぐ背後の土間じゃ七十を越した祖母さんが、お櫃の底の、こそげ粒で、茶粥とは行きません、みぞれ雑炊を煮てござる。前々年、家が焼けて、次の年、父親がなくなって、まるで、掘立小屋だろう。住むにも、食うにも――昨夜は城のここかしこで、早い蛙がもう鳴・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・あらかじめ考えて置いたのだろう、迷わずにすっと連れて行って下すったのは、冬の夜に適わしい道頓堀のかき舟で、酢がきやお雑炊や、フライまでいただいた。ときどき波が来て私たちの坐っている床がちょっと揺れたり、川に映っている対岸の灯が湯気曇りした硝・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・ お留が奥の間へ立っていった後へ、秋三は牛の雑炊をさげて表の方から帰って来た。「秋よ、お前もお前やないか、とうとうわしとこへ安次をにじりつけてさ。」と、お霜は云った。 秋三はお霜の来た用事を悟ると痛快な気持が胸に拡った。彼はにや・・・ 横光利一 「南北」
吉をどのような人間に仕立てるかということについて、吉の家では晩餐後毎夜のように論議せられた。またその話が始った。吉は牛にやる雑炊を煮きながら、ひとり柴の切れ目からぶくぶく出る泡を面白そうに眺めていた。「やはり吉を大阪へ・・・ 横光利一 「笑われた子」
出典:青空文庫