・・・ 花の蜃気楼だ、海市である……雲井桜と、その霞を称えて、人待石に、氈を敷き、割籠を開いて、町から、特に見物が出るくらい。 けれども人々は、ただ雲を掴んで影を視めるばかりなのを……謹三は一人その花吹く天――雲井桜を知っていた。 夢・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・木内宗五も吉田松陰も雲井竜雄も、江藤新平も赤井景韶も富松正安も、死刑となった。刑死の人には、実に盗賊あり、殺人あり、放火あり、乱臣・賊子あると同時に、賢哲あり、忠臣あり、学者あり、詩人あり、愛国者・改革者もあるのである。これは、ただ目下のわ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・野口男三郎も死刑となった、と同時に一面にはソクラテスもブルノーも死刑となった、ペロプスカヤもオシンスキーも死刑となった、王子比干や商鞅も韓非も高青邱も呉子胥も文天祥も死刑となった、木内宗五も吉田松蔭も雲井龍雄も江藤新平も赤井景韶も富松正安も・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ペルリが浦賀へ来た時代に大儒息軒先生として知られ、雲井龍雄、藤田東湖などと交友のあった大痘痕に片眼、小男であった安井仲平のところへ、十六歳の時、姉にかわって進んで嫁し、質素ながら耀きのある生涯を終った佐代子という美貌の夫人の記録である。「と・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 待合にしてある次の間には幾ら病人が溜まっていても、翁は小さい煙管で雲井を吹かしながら、ゆっくり盆栽を眺めていた。 午前に一度、午後に一度は、極まって三十分ばかり休む。その時は待合の病人の中を通り抜けて、北向きの小部屋に這入って、煎・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・坐右の柱に半折に何やら書いて貼ってあるのを、からかいに来た友達が読んでみると、「今は音を忍が岡の時鳥いつか雲井のよそに名のらむ」と書いてあった。「や、えらい抱負じゃぞ」と、友達は笑って去ったが、腹の中ではやや気味悪くも思った。これは十九のと・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫